第四夜 焼酎風土記
「味噌なめて 晩飲む焼酎(しょちゅ)に毒はなし 煤けかかに 酌をさせつつ」
これは、鹿児島県出水市にある開墾記念碑、通称「味噌なめの碑」と呼ばれる石碑に刻まれている狂歌である。
上等な肴は無くとも、奥さんと差し向かいで飲む晩酌の焼酎が、毒であろうはずが無い。むしろ百薬の長、夫婦和合の秘訣と、ユーモアたっぷりに詠んだこの碑文は、焼酎をこよなく愛する鹿児島県人気質を、見事に歌いあげている。
そもそも鹿児島は高温多湿のため、清酒では腐りやすい。また、シラス土壌という恵まれない土地柄と、温暖で台風が多いという気候の中で、さつまいもは大切な救荒作物であった。
そのような事情が重なってか、芋焼酎はいつの間にか、鹿児島の気候風土と生活習慣が育んだ、まさにふるさとの文化とも呼べる酒となったのである。
鹿児島に単身赴任で訪れた人が、ほぼ例外なく焼酎党になるという話をよく耳にする。
初めは取っつきにくかった焼酎の芋臭さが、いつの間にかえもいわれぬ芳香へと変わる。
そんな心理状態の劇的変化を、現代のビジネス事情が日々生み出していると考えれば、これもまた痛快な話である。
シラス
鹿児島県本土と宮崎県南半分において、それぞれ約50%および約16%の総面積にわたって分布している特殊土の一種を指している。 火山灰が積もってできた台地で崩れやすくがけ崩れなどの災害が起きやすい土壌である。